小料理 「えふぇくと」2
私の名前は東雲憲司。
40手前の会社員。
妻や子供はなく1人やもめの気ままな独身だ。
趣味といえば仕事帰りに馴染みの小料理屋に足しげく通うくらいの寂しい男。
今日もいつもの小料理屋で女将と話そう。
前回ボラれてからまだ日がそんなに経ってない。
しかし不思議な事に女将の作る空気感が「えふぇくと」に向かわせる。
長い事独身でいたから貯金はそこそこある。
あの空気感を味わえるなら少しは切り崩してもいいとさえ思える。
不思議だ。
それに今回私は試したい事もあった。
「やってる?」
そりゃ暖簾が出てるからやってるだろう。
でも暖簾をくぐるとどうしても言いたくなる。
今日も客は私1人のようだ。
女将の志乃ぶが犯罪列島!警察24時を観ながら一言。
「あら、ケンさんいらっしゃい」
「今日もお客さんいないねぇ」
相変わらずの閑散とした店内だ。落ち着く。
女将はいつもは身に付けないブレスレットを付けていた。
ぱっと見でも分かるような高価な物だ。
パトロンだろう。
「今日は何から始める?」
来た!!
私の試したかったのはここだ。
いつもコーラを頼むとペプシが出てくる。
ならばペプシを頼んだらコーラが出てくるかもしれない。
私は一縷の望みをかけ言葉を発した。
「たまにはペプシから始めようかな」
「あらっ珍しい」
鼓動が高くなる。
これでコーラが出てきたらいつもの何倍もコーラを美味しく飲めそうだ。
「はい。」
トン。
色は黒い。
1口飲んでみた。
ドクターペッパーだ。
なぜだ。
コーラを頼むとペプシが出てペプシを頼むとドクターペッパーが出てくる。
ミステリーだ。
「お料理どうする?」
「枝豆となんかオススメある?」
「無いわ。」
「じゃぁ枝豆で。」
デフォだ。落ち着く。
テレビでは違法風俗のガサ入れで突入する前の緊迫した様子が映し出されている。
僕も魅入っていた。
これからさぁ突入という時に志乃ぶが話しかけてきた。
「そろそろ新入社員が辞める時期じゃない?ケンさんとこはどう?」
「うちはまだ辞めて無いけどそれにはワケがあるんだ。社員全員で新入社員が来る前にパワハラ、セクハラの講習みたいのを受けたんだ。
こういう行為は絶対にしちゃいけないっていう感じのね。」
「あらっ。優良企業ね」
「でもそれによって新入社員が調子に乗ってる。上司の声なんて耳に入ってないよ。
俺らの頃は先輩が飲みに行くって言ったらどんな用事でもキャンセルして行ってたのに今じゃ自分彼女とデートなんでとか言って帰っちゃう。なんだかなぁって感じだよ」
違法風俗のガサ入れは終わっていた。
自分が働いて半年経った頃はどんなだっただろう。
少し私の就職した半年後の話に触れさせてもらう。
吉祥寺に異動になった私は相変わらず全てのことを舐めていた。
その頃になるとブローモデルやカラーモデルを入れるようになる。
営業後にお店のパンフを持って駅前に行ってカラーモデルしませんか?と延々と話しかける。
10人声を掛けて1人位が話を聞いてくれるという地獄の時間だ。
ただ私はナンパ慣れしていたのでガンガン捕まえた。
可愛い子を。
1人はサロンの専属のモデルになって最終的にはケープのCMかなんかに出るまでになってた。
そんな可愛い子ばかり捕まえるからカラーが終わった後はそのまま飲みに行ったりして。
その後はご想像にお任せする。
営業中にビラ配りにも行かされた。
面倒臭いから駅前のパラッツォというパチ屋で吉宗を打ってた。
日によっては2時間で8万勝つ日もあった。
その頃はパチにハマっていた。
ある日夜9時から全店ミーティングというのがあった。
全店の人が吉祥寺に集まるというミーティングだ。
自店がその日に限って早く終わり7時に終わった。
2時間ある。
パチだ!
今でも忘れない。
CR仮面ライダーを打った。
クッソ出た。
9時の時点で確変が終わらない。
携帯はバイブしっぱなし。
着信件数はすごい数
フルシカト。
結局その日は閉店まで出続けお店に戻ったのは11時半だった。
ミーティングは終わっていたがスタッフは残ってる。
どこにいたと聞かれる。
漫画喫茶で寝ちゃったと答える。
セーーーーーーーーーーーーフ。
セーフだ。
疑う者などいなかった。
瞬間とはいえなかなかの嘘である。
結局その日は16万勝った。
約1ヶ月分の給料だ。
幹部がマウント欲求を満たす為だけのクソみたいなミーティングに出なくて良かったと本気で思った。
そんな事を半年程繰り返した。
「ケンさん、ケンさん」
またあちらの世界に行ってたらしい。
「ごめんね。もう1時だから。。」
「あっごめん。そしたらおあいそで」
「21万円になります。」
まただ。
懲りない。
21万を払いしっかりとした足取りで家路に向かう。
2日で貯金の5分の1が飛んだ。
臨時収入が入ったらまた来よう。
「えふぇくと」に。。。