小料理 「えふぇくと」1

私の名前は東雲憲司。

40手前の会社員。

妻や子供はなく1人やもめの気ままな独身だ。

趣味といえば仕事帰りに馴染みの小料理屋に足しげく通うくらいの寂しい男。

今日もいつもの小料理屋で女将に会いに行こう。

 

ここの小料理屋「えふぇくと」は枝豆以外は鎌〇パス〇くらい不味いが女将の人柄に惚れて10年程通っている。

 

「やってる?」

 

今日も客は私1人のようだ。
女将の志乃ぶがセパ交流戦を観ながら一言。

「あら、ケンさんいらっしゃい」

「今日もお客さんいないねぇ」

そうなのだ。
ここはいつも閑古鳥が泣いている。
経営は大丈夫なのか?と思うかもしれないが女将の容姿を見ると納得だ。

パトロンがいるのだろう。

「今日は何から始める?」

「いつも通りコーラで。」

ふふふと笑いながら志乃ぶはキンキンに冷えたコークを差し出す。
いつも思うがこれはペプシだ。
私はコーク派だからすぐわかる。
グラスにもPEPSIと書いてある。

「お料理どうする?」

「枝豆と何かオススメあるかい?」

「無いわ」

「じゃぁ枝豆で」

これがいつも行われるデフォだ。

少し飲んでいると志乃ぶが話しかけてきた。

「ケンさんなんか疲れてるみたいね」

志乃ぶはいつも鋭い。

と思ったがよく考えれば私はいつも疲れてる。
疲れてる?と聞けば正解なのだ。

いつもは私の恋愛事情から聞いてくる志乃ぶがこの日は少し違った。

「ねぇねぇケンさん。ケンさんの所の新入社員ってどんな感じ?」

急に社会派な質問をぶっ込んできた。
新しい男の影響かもしれない。

「まぁ他のとこと似たような感じで言われた事は素直にやるけどそれ以外はやらない。仕事に対する情熱が無いやつばかりだね」

実際最近は熱を持った若い子に会ったことが無い。

「最近みんな口を揃えて今の若いのはダメだなんて言うけど私達の頃と比べてホントにダメなのかしら?」

自分達の頃かぁ。。。。
そういえば自分達の頃を今の若い子と比較して見てなかった。
少し自分の新入社員の頃の話に触れさせてもらう。

私は美容の専門学校を卒業後、東京に就職が決まった。
吉祥寺に本店がある会社だ。

僕は根拠の無い自信があり自分なら絶対本店の吉祥寺に勤務だろうと思っていた。

しかし蓋を開けてみると八王子だった。

そこのセット面20席以上のアホみたいにデカいお店が最初の就職先だった。

スタッフも20人近くおり全8店舗中1番でかいお店で働く事になった。

初めは真面目に働いてたが2週間もすると慣れてくる。

遅刻、サボり、上に楯突く。

問題児だったように思う。

毎晩のように同期とウチに集まり酒や先輩の悪口で盛り上がった。

遊びばかり夢中になって練習などせず仕事が終わったらすぐ帰る。

そんな新入社員だった。

半年程経った頃異動になった。
後から聞いた話だが当時の女性店長がサジを投げたらしい。

あの子は無理。。。

異動の理由は無理という単純かつ明解なものだった。
奇しくも異動先は吉祥寺。
憧れた土地だった。

 

 

 

 

 

「ケンさん。ケンさん。」

昔を思い出し回想していたら無言になってたらしい。

「ごめんね。もう1時だから。。」

 

「あっごめん。そしたらおあいそで」

 

 

 

 

 

「15万円になります。」

 

 

またボラれた。

 

 

15万を支払いしっかりとした足取りで家路に向かう。

 

お金が貯まったらまた来よう。

「えふぇくと」に。。。